残留思念とは言え、流石は至高の魔王。海水も彼を避けていく。
そして、シャーン自身にも迷いが生じた。愛する者に殺意を向けているという事実に躊躇った隙を、傲慢の魔王は見逃さない。
気が付いた時には既に、シャーンの身体は動かなかった。ルシファーの魔力による呪縛なのか魅了なのかは分からないが、どちらでも同じ事だ。
自慢の緑色の髪を無造作に掴まれる。
「きっと貴様に似合う」
辛うじで残っていた船首の部分に、ルシファーは移動する。
そこには大きな人魚の彫刻が取り付けてあった。見事なものであったが、構わずにルシファーは砕く。セレストには知る由もなかったが、レヴィーナをモデルに悪魔が彫ったものである。
「生きた人魚を船に飾るのも良いものだな?」
黒い鎖で、シャーンを磔にした。シャーンの青白い肌に、美しい鱗に醜い痕が浮かぶ。
「さぁ……洗い浚い喋れ。メルキュリアは何故殺された、誰が殺した。そして、儀式を行っているのは何処だ」
ルシファーの怒りを表すように、鎖はギリギリとシャーンの身体に食い込む。それこそ彫刻のように整っていたシャーンの顔を苦痛に歪ませる。
「聞いて……貴方は、如何するのですか?」
「何?」
「暁の天使にして傲慢の魔王様、貴方に人間の小娘など――相応しくないではないですか」