「如何いう意味だ」
シャーンは長くルシファーを愛しているが――傲慢の魔王の心を動かしたのは、この時が初めてかもしれない。
「だって、そうでしょう?」
こんな状況でも、不思議と笑えた。どんなに恐ろしい表情で睨まれても……今はまだ、殺される事はない。自分は、セレストとルシファーがやっと掴んだ真相への手掛かりなのだから。
「脆弱、簡単に死にました」
だからシャーンも、直ぐに核心を話したりはしない。少しでもルシファーの心に残る為に、話し続ける。
「私達だと加減が分からなくて、あんなにあっさり死ぬとは思わなかった」
さっさと拷問士に渡しておけばよかった、そうシャーンは続ける――しかし。
「達、か……旅はまだ終わらぬぞ、セレスト」
ルシファーの思考は、既に他の者へと向けられていた。シャーンの為に時間を裂くのも惜しいと、ルシファーの態度に言われた気がする。
「――何故っ!」
私は貴方の視界に入れないのですか。
「あの女は愚かです、汚れている――あの女は醜い!」
例え悔しくても、ルシファーの興味を自分に向ける為に――咄嗟に思い付いたのは、王妃を貶める事だった。
嫉妬の魔王の片割れの激昂に応えるように、海水は渦を巻いた。が、それだけ。自分が操る水の流れは、元よりルシファーの身体を避ける。今のシャーンでは、何一つ愛しい男に届かない――その言葉でさえも。
「メルキュリアは罪深い!」
もう心乱される事もなく、傲慢の魔王は静かに応えた。煩い虫を払うかのように。
「何か、勘違いをしていないか?」
それはルシファーの、元愛人に対する最後の慈悲。クリアに出会っていなければ、この場でもシャーンを無視しただろう。
「喋らない貴様に、私は用など無い」
精々楽に殺してもらうんだな――そう言ってルシファーは、セレストの奥深くへと帰る。長かった金髪が、本来の短い青髪に戻った。
「如何して……ルシファー様、私は真相への手掛かりでしょう?」
口に出してみて、やっと理解した。傲慢の魔王にとって、真相は二の次なのだ。それこそ、関係者全員を殺せばいい――それを可能にする力と精神を、至高の堕天使は持っているのだから。
真相に価値を見ているのは、寧ろ契約者のセレストの方だ。無関係と判断出来たら、その分殺さなくて済む。
ルシファーにとって、自分には本当に価値がないのだと思い知らされた。