The dawn 第13話

 

 騒がしい足音と共に、ブレイズ達のいる部屋に伝令がやってきた。

「メルダミカ様の所在が判明しました!」

「姉様が!?」

 誰よりも早く立ち上がったのはケイだった。

「場所は何処だ?」

「南の国境付近にて目撃、サンドリア方面に向かっているようでした」

 詳しく聞くと、如何やら慎重に……大勢の、戦える悪魔崇拝者達に護送されているらしい。

「我が国で何をするつもりなのだ」

 シャルトもまた、怒りを露わにする。自分の祖国が汚されるようでもあり、我慢ならない。

「おい、お前も戦いに行くのか!?」

 隣にいた筈のシオネリーゼが、何時の間にか来ていた。聞こえても不思議ではない声で話していた事にやっと気付く。

 慌てたように皇帝クリストファーがシオネリーゼを止めようとした。しかし娘は父親の手をすり抜ける。

「……今、私はノルドレイス帝国の、皇帝の娘じゃないですから」

 自分の身分を知れれた事を、シオネリーゼは知っているようだった。その寂しそうな表情が、ブレイズの脳裏に焼き付く。

 

 暗いのは、苦手だ――あの部屋を思い出すから。人目を忍んでの夜の移動は、身体にも良くない。メルダミカは心身共に疲弊していた。

「……帰りたい」

 大聖堂に、ではない。妹達と恋人達がいて、皆で笑っていられる場所――そして、マカディアのケイの家に。

「ケイちゃん」

 此処にはいなくても、ケイの存在はメルの支えだ。声に出すと、少しだけ不安が消える。

「敵襲です!」

 耳を澄まさなくても後ろが騒がしいのが分かった。急ぐように言われたが、やはり身体が重くて思うように速度が上がらない。痺れを切らした男がメルを乱暴に担ぎあげた。

「ケイちゃん……ケイちゃんっ!」

 思った以上に不安定で、肩から落ちそうで怖い。壊れそうな心を、魔法の言葉を唱えて必死で守る。

 と、男が急に止まった。何事かと思ってメルは顔を上げる。月明かりに浮かぶは、高い背と広い肩幅をした男が一人。

「メルちゃん」

 一番見たい笑顔が、そこにあった。視界が涙で滲んでも、今のメルにはケイの存在がしっかりと感じられる。

「向かえに来たよ、皆のトコに帰ろう」

 

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