騒がしい足音と共に、ブレイズ達のいる部屋に伝令がやってきた。
「メルダミカ様の所在が判明しました!」
「姉様が!?」
誰よりも早く立ち上がったのはケイだった。
「場所は何処だ?」
「南の国境付近にて目撃、サンドリア方面に向かっているようでした」
詳しく聞くと、如何やら慎重に……大勢の、戦える悪魔崇拝者達に護送されているらしい。
「我が国で何をするつもりなのだ」
シャルトもまた、怒りを露わにする。自分の祖国が汚されるようでもあり、我慢ならない。
「おい、お前も戦いに行くのか!?」
隣にいた筈のシオネリーゼが、何時の間にか来ていた。聞こえても不思議ではない声で話していた事にやっと気付く。
慌てたように皇帝クリストファーがシオネリーゼを止めようとした。しかし娘は父親の手をすり抜ける。
「……今、私はノルドレイス帝国の、皇帝の娘じゃないですから」
自分の身分を知れれた事を、シオネリーゼは知っているようだった。その寂しそうな表情が、ブレイズの脳裏に焼き付く。
暗いのは、苦手だ――あの部屋を思い出すから。人目を忍んでの夜の移動は、身体にも良くない。メルダミカは心身共に疲弊していた。
「……帰りたい」
大聖堂に、ではない。妹達と恋人達がいて、皆で笑っていられる場所――そして、マカディアのケイの家に。
「ケイちゃん」
此処にはいなくても、ケイの存在はメルの支えだ。声に出すと、少しだけ不安が消える。
「敵襲です!」
耳を澄まさなくても後ろが騒がしいのが分かった。急ぐように言われたが、やはり身体が重くて思うように速度が上がらない。痺れを切らした男がメルを乱暴に担ぎあげた。
「ケイちゃん……ケイちゃんっ!」
思った以上に不安定で、肩から落ちそうで怖い。壊れそうな心を、魔法の言葉を唱えて必死で守る。
と、男が急に止まった。何事かと思ってメルは顔を上げる。月明かりに浮かぶは、高い背と広い肩幅をした男が一人。
「メルちゃん」
一番見たい笑顔が、そこにあった。視界が涙で滲んでも、今のメルにはケイの存在がしっかりと感じられる。
「向かえに来たよ、皆のトコに帰ろう」