「上手く行きました」
掲げていた紫色の石のついた杖を降ろしながら、シオネリーゼは振り返る。
「魔法も使える方だったとは……」
「すごいのだぁぅ!」
転移という、便利な魔法でケイを前方に送った。シオネリーゼは魔法を使いこなせるという訳ではないが――魔法を使える者が少ないので、非常に重宝されている。
「いえ、お役に立てて良かったです」
表情を変えずにシオネリーゼは杖をレイピアに持ち替えようとしたが、ブレイズに手首を掴まれた。
「貴女は魔法で援護してください、前で戦える者は沢山いますから。ユリシア殿とリーシャ殿の事もお願いします」
「……分かりました」
危険な目に遭わせたくないというブレイズの思いを、知らぬはシオネリーゼのみである。
「聖女の力が使えない?」
悪魔を退ける力を、メルダミカは何時の間にか失っていた。それに気付いたのは朝、ケイ達と共に館に戻ってからであったが。
「恐らく、長く悪魔崇拝者の持つ負の魔力を受け続けた為だろうね。一時的なものかもしれない」
そうフェルゼンは推測した。
「私……」
メルダミカは俯く。何時かただの人間になる事を望んではいたが、何故今なのだろう。何故妹達と同時に失えなかったのだろうか。
「もし、聖女の力が戻らなくても……メルちゃんはメルちゃんだよ」
自分達にとって掛け替えのない存在である事は変わらない――ケイはそう言ってまた笑う。ユリシアもリーシャも、ダンテもシャルトもブレイズも――誰もが力の事など気にしてはいない。
ただただ、メルの帰還を喜んでいるのだった。
「おし、今日は一日宴だ!」
ダンテの急な提案にも、反対するものはいない。
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