神団との衝突から数日が過ぎたが、再び戦になるような事はなかった。今日は悪魔の出没もなく、皆が思い思いに過ごしている。特に、訓練の終わった午後は全員が自由時間だ。街へと繰り出す者、宿舎で休む者、様々。
そして庭の片隅で――何処から集まってきたのか、何匹もの猫に囲まれて幸せそうに眠っているシオネリーゼ。それを見つけて、ブレイズは隣に腰を下ろす。
彼女に触れる訳でもなく、ただこうして見ているだけでいい――ダンテ当たりに笑われるだろうが、構わなかった。
「にゃー」
目が覚めたらしい猫を撫でてやる。
「にゃ!?」
しかしその猫はブレイズの後ろを見て、逃げてしまった。何だろうと振り向いてみると――いた。此方を見ている男と、ブレイズの目が合う。
「……あの」
何か用があるのかもしれないと思って、声を掛けてみるが……その不審者は逃げ出した。怪しい、怪しすぎる。
約30秒後、その男はあっけなく捕えられた。
不審者を見て驚いたのは、偶然通りかかったシャルトとフェルゼンだった。
「何故貴方のような人がこんな所に?」
二人はこの男の事を知っているようなので尋ねてみる。
「知り合いなのですか? 一体如何いう方なのでしょう」
告げられた不審者の正体は、ブレイズを驚愕させた。
「東の帝国の皇帝だ」
大陸の東の約半分を治める、ノルドレイス帝国。聖女の力無しでも悪魔を退け一帯を平定した、神聖皇帝クリストファー。伝説的な人物だ。
「そうはみえないのだぁぅ」
「うん、見えないね」
ウサギたちは素直だ、此処が帝国ならば処刑ものだろう。
「煩い、今日は皇帝としてではなく父親として来てんだよ」
「父親として?」
柄の悪い神聖皇帝は頷いた。
「ああ、シオネリーゼは俺の娘だ」