魔王輪舞曲 第12話

 

  もしも、一寸先も見えない闇の中をさ迷い歩いているとする。東西南北も、時間の感覚も失い……何故歩くのかの理由も分からず。けれど決して止まる事を許されぬ、永劫の旅路を貴方は行くとする。

  もしも、そこにただ一つ光るものを見つけたとする。心から愛しいと思う相手が微笑んでいて――しかし、遠ざかって行くとしたら。

「追わずにはいられない」

  セレストは、即答した。

「でしょ?  クドクドと術式を説明するよりずっと分かり易い説明だと思うわ」

  悪魔も人間も、魔王だって変わらないのよ。そうサティアは言った。

「ルシファーは、自分は戻らないと言っていたよ?」

「けれど……あの人は今も探し歩いてる。でなきゃ貴方と会った時、二人で出て来るわ。クリア――あ、妃の愛称なんだけどね。彼女も金髪で緑の目をしてたのよ。間違わないとも限らない。それに」

  もしルシファーが戻らなくても、悪魔達は次の贄を求めて娘を殺す……彼が蘇るまで、ずっと。

 

 改めて、セレストは嫉妬の魔王の支配する海を目指している。

 血や肉片で汚れていた服は、白く糊の利いたシャツに着替えた。身体が清潔になると、心まで鮮明になるから不思議だ。

「ルシファーの思念に呑まれちゃ駄目よ、貴方にはエセルって子がいるんだから。復讐するルシファーの亡霊じゃない、セレストを待ってるんだから」

 送り出してくれたサティアの言葉を胸に――今度こそ、『セレスト』は歩いていく。

 

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