魔王輪舞曲 第10話

 

 泣いている、気がした。僕とエセルの名前を呼んで、啜り泣いているロッテ――ああ、ごめん。まだ僕は帰れない。

 もうこの手は血塗れだけど、まだエセルを助けてない。だから、帰れない。

 なのに、僕は目を覚ますと……隣によく知っている人が座っていた。銀色の髪に碧い目、此処にはいない筈の――。

「……ロッテ?」

「誰よそれ」

 返って来たのは不機嫌そうな声だった。姉よりも勝気で、何というか子供のような。こんな悪魔もいるんだな。

「私はサティア、倒れてた貴方を拾ってあげたの。覚えてる?」

 僕は首を横に振った。

「見つけた時はびっくりしちゃった、全身真っ黒で汚れてるんだもの」 

 悪魔らしくない笑顔で、サティアは僕を治療してくれた。

 

 嫉妬の海を目指して歩いていたセレストは、その西の憤怒の森に来てしまったらしい。

 森の主の憤怒の魔王サティア・ネルに助けられたのだった。

 

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