泣いている、気がした。僕とエセルの名前を呼んで、啜り泣いているロッテ――ああ、ごめん。まだ僕は帰れない。
もうこの手は血塗れだけど、まだエセルを助けてない。だから、帰れない。
なのに、僕は目を覚ますと……隣によく知っている人が座っていた。銀色の髪に碧い目、此処にはいない筈の――。
「……ロッテ?」
「誰よそれ」
返って来たのは不機嫌そうな声だった。姉よりも勝気で、何というか子供のような。こんな悪魔もいるんだな。
「私はサティア、倒れてた貴方を拾ってあげたの。覚えてる?」
僕は首を横に振った。
「見つけた時はびっくりしちゃった、全身真っ黒で汚れてるんだもの」
悪魔らしくない笑顔で、サティアは僕を治療してくれた。
嫉妬の海を目指して歩いていたセレストは、その西の憤怒の森に来てしまったらしい。
森の主の憤怒の魔王サティア・ネルに助けられたのだった。