黄金の宮殿は、眩かった。右を見ても左を見ても輝いている。此処までいくと、美しいというよりも下品だ。
「強欲のマーモン……」
ルシファーの加護か浸食なのかは分からないが――頭の中に、強欲の魔王の情報が浮かんでくる。
金と地位と宝石が好き、衣装も常に豪華に輝いている。そんなマーモンの正体も、セレストは『知って』いた。
「クリアの、仇だ。クリアさえ、金で買おうとした愚かな者」
この時のセレストは――紛れもなく、ルシファーの残留思念に思考を浸食されていた。
亡霊はゆらり、と現れた。金色の廊下や壁を、行く手を遮る悪魔達の肉片と体液を撒き散らしながら玉座の間へと進む。
「マーモン」
やはり黄金で出来た玉座に座っていた強欲の魔王は煩そうに眉根を寄せた。
「何者だ貴様、この強欲の魔王であるマーモンに無礼であるぞ!」
血まみれではあるが、今のセレストはただの人間のまま。下級の悪魔にしか、マーモンからは見えなかった。
「傲慢だな、この私に跪き媚び諂っていた貴様が――まるで魔界の支配者のようだ」
セレストの背中にルシファーと同じ、漆黒の翼が広がった。
「陛下!?」
「苦しませてから殺してやる、マーモン」
この青年がルシファーと契約を交わしたらしい事と、自分の命を狙っている事――全てを察した強欲の魔王は、それでも不敵にセレストを嘲笑った。
「例え陛下の力でも……このマーモンを滅ぼせはしない」