まさにとぼとぼといった感じで、僕は街を歩いていた。
結局僕は兄さんを見つけられず、陽は落ちてしまった。もう夕闇というよりは、完全に夜だ。叱られるだろうが、この僕にそんな事したヤツはクビにしてやるんだ。
「そこの、君」
などと考え事をしていた所為か、声を掛けられた事に気付かなかった。
「君だよ、赤い髪の君」
「僕?」
顔を上げると、笑っている男がいた。何故か、僕にやたらと近寄ってくる。
「何の用?」
「用も何も……今夜は私が買ってあげよう」
「はぁっ?」
コイツ、何言ってんの?
「こんな時間に一人で出歩くなんて、そうなんだろう?」
冗談じゃない、気持ち悪い。そして何よりも――。
「僕は男だ!」
娼婦か何かと勘違いされたみたいだった。男は僕に迫ってくる。
「男でも構わないよ、むしろ種を刈り取る必要もないから好都合だ」
ふざけんな。何処の誰かは知らないけど、酷い目に遭わせてやる。
「嫌だ、放せよ!」
でも……それは、僕が家に帰った後の話だ。男は僕の腕を掴み、何処かに連れて行こうとする。暴れたって、この時の僕は非力だった。
「可愛がってあげるから、ね? 来るんだ!」
強引に引かれて、腕が痛い。この人、怖い……誰か、誰かッ――!。
「そこまでにしとけよ」
低い声と、短い悲鳴。そして急に自由を取り戻した僕は、転びそうになった。
「おっと……」
さっきの男とは違う腕が僕を支える。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
その後、彼が僕を襲おうとした男を追い払ってくれたらしい事しか覚えてない。怖くて、助けてくれた彼をずっと見ていたからね。
とにかくそれが――僕達の出逢いだったんだよ。