花の咲き乱れた野原に座っている恋人に、僕は近付いて行く。彼女の金髪が、黄色い花の中に溶けてしまいそうだった。
「セレスト?」
僕に気付いたエセルが顔を上げた。優しい緑色の瞳が大きく開かれる。手には編みあがったばかりであろう、花の冠。
「ロッテに、此処だと聞いたんだ」
僕はと言うと……少し声が上擦ってしまった。エセルが首を傾げている。
「逢いに来るって言ってくれたら、今日はずっと家に居たのに」
エセルの正面に、向かい合う形で僕は膝を付いた。片手でごそりと、ポケットの中を探す。目的の物の、硬い感触。
「如何したの? 何だか、今日のセレストはそわそわしてる」
会話は途切れている、兎も角切りださないと。そればっかりを考えていた為か、エセルの問いに答えられなかった。
「エセル、手を出して」
「えっと、こう?」
「違う……左手」
傾げていたエセルの首が、更に傾げた。
「こう?」
僕はエセルの左手を取り、薬指に指輪を嵌める。エメラルドの嵌った金のリング――エセルの色と、同じ。
「え、ゆび……わ?」
「エセルベルタ・リスティル嬢、僕と――結婚してください」
彼女が驚いた所為か、右手で握っていた冠がぽとりと落ちた。
「あり、がとう……」
彼女の指が、指輪に触れた。応えるように太陽の光を反射し、指輪はキラリと輝く。
「エセル、愛してる」
僕は膝に落ちていた花冠をエセルの頭に乗せ、彼女にそっと口付けた。