「何故だ?」
そう誰ともなしに問うた所で、彼女は動かない。
「何故、生きていないのだ」
答えは分かり切っている。守れなかったのだ。
「如何して――死んでいる……?」
考え得る限り、思い付く限りの全てを以って庇護していた。なのに、何故?
「クリア……私の、愛しいメルキュリア……」
名前を呼ぶと動き出すと思った。身じろいで目を開けて、何時ものように彼女は笑うと。しかし彼女が笑うのは私の心――思い出の中だけだった。
「――ああ、そうか」
何時か、彼女に言われた言葉が蘇る。彼女の声で、彼女の唇が動く。
『傲慢の魔王としてでなく、貴方とならずっと一緒にいてもいいですよ?』
ならば、ずっと一緒にいられないという事は――。
「私は未だ、傲慢の魔王と呼ばれるに相応しい存在だったのだな」
笑えてくる。そうだ、守りきれると思い切っていた。強者の余裕……私の中の傲慢が招いた結果。
「……もう、生きる価値がない」
この魔界にも、この愚かな男にも。私は腰の剣を引き抜く。私の後方でベリアルが何か叫んだが、最早そんな事は如何でもよい。
魔界で死ぬという事。魂は輪廻の輪に戻れず、永遠に天と地の間を行き来するという事に他ならない。
「ならば――共に彷徨おう、クリア」
冷たくなった我が妃を抱きしめる。しかし、周りが煩い。煩い。煩い。私とクリアの、邪魔をするな!
「貴様らに、クリアのいない世界に興味等ない。クリアを殺した者は、勝手に滅べ」
私は自分の胸に刃を突き立てた。自殺なんて、とお前は叱るだろうか?
それでもいい、叱る顔でいい。怒った声で、構わないから。
だから――私の側に、いてくれ。