街から離れた平原で、彼等は激しくぶつかりあっていた。
暁光十字軍と呼ばれる神団の軍隊は、本来悪魔を狩る為に組織されたものである。本分はそうなのだが、時に神団の私兵として扱われた。聖女の護衛は兎も角――今回のように、神団に従わない者の討伐に際しては特にその面が強い。
「久しいね、シャルト」
戦地の中央で、フェルゼンとシャルトは対峙した。
「ユリシアを危険に晒したそうじゃないか」
神団の決定には乗り気でなかったフェルゼンも、こうして天敵を前にすると怒りがこみ上げてきた。
「間違った事をしたとは思っていない、大聖堂に幽閉する事になんの意味がある」
「聖女の命を守る意味程、大切なものはないだろう?」
両者は走り出し、遂に刃を交える。
「君が連れ出しさえしなければこんな事にはならなかった――彼女は神団にいるのが、一番安全なんだ!」
「心は如何なる……聖女ではない、ただのユリシアとして生きる事が出来ぬのだぞ!」
普段は後衛で魔法を使っているので剣は扱い辛かったが、シャルトには負ける訳にはいかない理由がある。
自分の背の後ろにいるのは、愛しいユリシアなのだから。倒れれば自分の死を嘆いて流した涙すら神団に利用される日々が待っている。
ただ一つ、シャルトにとって誤算だったのが――ユリシアもまた、シャルトを守りたいと思っているという事だった。二人の間に入って来て初めて、ユリシアが危険な戦場を走って来たのに気がつく。
「退いてくださいフェルゼン!」
神団の兵に確保されず、また流れ矢が当たらなかった事……シャルトは直ぐにナリィの幸運の力だと気付いた。
「ユリシア!?」
彼女もまた、慣れない武器を持っている。フェルゼンならば武器を叩き落して身柄を確保するのは容易い、が。
「貴方は私が守ります……!」
シャルトに連れ出されたのではない――自分の意志でユリシアはシャルトの側にいる事を選んだのだと、フェルゼンは悟った。
「……今から、僕は元の役目に戻るよ」
フェルゼンは一人、背を向ける。彼の役目、ユリシアを危険から守る事。たった今自分が指揮してきた軍と対峙し――シャルト達と同じ方向を向くのだった。