庭園の一角を借りて、ブレイズとシオネリーゼは手合わせをしていた。
戦場で彼女を守る為にも、実力を知っておくのは必要な事……赤くなってはいられない。武人として、ブレイズは分析する。
「宜しくお願いします」
彼女が構えているのは、レイピア――扱い易く、貴族が好んで使用する武器。何度か打ち合ってみる。
「基礎は出来ているようですね」
となると……武人の娘だろうか。九尾騎士団に入ってから身に付けたモノではなさそうだし、貴族の女で武術を習う者はまずいない。
クライストならば例外は多いが、彼女の剣にクライストで教わる癖のようなものは見られない。
しかし、シオネリーゼは考え事をしている隙を見逃してはくれなかった。喉元狙って突きを繰り出す。
それをブレイズはあっさりとかわし、シオネリーゼの肩を軽く押した。バランスを崩して地面にうつ伏せに倒れ込む。
「痛っ……」
「怪我はありませんか?」
ブレイズが差し向けたのは刃ではなく、起き上がるのを助ける為の手と笑顔だった。が、シオネリーゼは自力で立ち上がり服についた土を軽く払う。
本当ならばにこにこと笑っている間に斬り付けてやりたい気持ちだったが、何だか毒気を抜かれてしまった。どちらにせよ、自分の完敗だ。
「倒れても剣を手放さないのは、戦う者としては良い事だと思います」
悔しく思っているのが顔に出たのだが、そんな自分の性分をシオネリーゼは理解していないらしかった。
「本題なのですが、戦闘中は私の後ろにいてください」
「……分かりました」
渋々と言った感じではあるが、シオネリーゼはブレイズに従ってくれた。性格なのか九尾騎士団の教育なのか、とても助かる。
「飛び道具は何か、扱えますか?」
「はい」
「ならば、私が危なくなったら助けてください」
最も、そんな事態にはならない。今回彼女に課せられたのも、恐らく手柄を立てる事ではなく戦場に慣れる事。イグナスとしても、目を掛けている人材を簡単に失う訳にはいかないだろうから。
刃を届かせはしないし、飛んでくる矢も自分が打ち払えばいい。側に置くのが、一番彼女を危険から遠ざけられる。
何より――あまり人を殺しては、ほしくない。
「集合ッ!」
ダンテやイグナスの声と、鐘が響いた。聖女救出作戦に参加する者達が館から出てくる。
「いよいよ、ですね。行きましょう」
シオネリーゼもダンテ達の元へと向かう。正確には、クライストの紋章を掲げた団体へと。
そんな彼女の背中を見守りながら、ブレイズは呟いた。
「……護ります、全てのものから」
小さなブレイズの誓いは鐘の音に掻き消されたが、何時までも胸の内に熱として残った。