シャーンが泡となって消えたと同時に、海水がセレストに押し寄せてきた。叩きつけられるような衝撃で、息を吐き出してしまった。
目指すべき海上は遥か上--呼吸は持ちそうにないが、もがく。少しでも上へ。
こんな所では終われない。セレストはまだ、目的を果たせていない--エセルを助け出してない。
だから今は、彼女の事だけ考えよう。そうすれば自分は乗り越えられるから。
死の淵から出直すチャンスを得られたのも、一度失ってしまった自我を取り戻せたのも、エセルの事を思ったからだ。今回もきっと、力が湧いてくる。
しかし、思うように上には進めなかった。 何度も残骸にぶつかったし、靴はとうに底に沈んだ。その上、手には何かが絡みつく。
指先に、赤い糸? いや、違う。これは……血?
行かせるものか、とセレストの全身に絡みつく。視界の全てが、血に染まる。
「その血で赤く濡れた手で、愛しい者なんて抱けやしないのよ!」
--嫉妬の魔王が、命と引き換えに紡いだ呪い。
この手は、エセルに届かない?
next